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医療物流とは?営業・マーケ担当者が知るべき重要性

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「医療物流」という言葉を聞いて、あなたはどのようなイメージを抱くでしょうか?
単なるモノの運搬と捉えていませんか?

実は、医療現場を支え、患者さんの命と健康を守る上で、極めて重要な役割を担う専門性の高い分野です。

本記事は、日本国内の企業で営業・マーケティングに携わる方が、「医療 物流」の奥深さと可能性を理解し、自社のビジネスに活かすための羅針盤となることを目指します。

医療物流とは?一般物流との違い

医療物流の基本的な定義と範囲

医療物流とは、医薬品、医療機器、再生医療等製品、治験薬など、医療に関わるあらゆる製品が製造されてから、医療機関や患者さんの手元に届くまでのサプライチェーン全体を指します。

単にモノを運ぶだけでなく、製品の保管、包装、情報管理、さらには医療機器の設置・回収、使用済み製品の廃棄といった多岐にわたるプロセスを含みます。

その目的は、医療製品の品質と安全性を確保し、必要な時に必要な場所へ確実に供給することで、患者さんの命と健康を守ることにあります。

そのため、一般物流とは一線を画す、極めて専門性の高い分野として認識されています。

医療物流と一般物流との違い

医療物流と一般物流の最大の違いは、取り扱う商材が「人の命と健康に直結する」という点にあります。

この特性が、以下の点で決定的な違いを生み出します。

法規制の厳格さ

医薬品医療機器等法(薬機法)をはじめとする厳格な法律やガイドライン(GQP、GDPなど)に則った運用が必須です。

品質管理の徹底

温度管理(コールドチェーン)、湿度管理、有効期限管理、ロット管理、トレーサビリティなど、製品の品質劣化を防ぐための高度な管理が求められます。

専門知識と設備

医療製品の特性を理解した専門人材、薬機法対応の専用倉庫、定温輸送車両、高度な情報管理システムなど、特殊な設備と専門知識が必要です。

緊急性と確実性

医療現場のニーズに応じた迅速かつ確実な供給が求められ、緊急時対応体制も重要です。

セキュリティ

高価な医療機器や管理が厳重な医薬品(麻薬、向精神薬など)の盗難・紛失防止のため、厳重なセキュリティ対策が不可欠です。

これらの違いから、医療物流は単なる輸送・保管サービスではなく、医療サプライチェーン全体の品質と安全性を担保する「医療インフラ」としての役割を担っています。

医療物流が扱う主要な商材とその特性

医療物流が扱う商材は多岐にわたり、それぞれに特有の管理要件があります。

ここでは主要な商材とその特性について解説します。

医療機器 ~精密性、高価、設置・回収の複雑性~

精密性

CTスキャン、MRI、手術ロボット、内視鏡など、精密な電子部品や光学部品を含むものが多く、衝撃や振動に極めて弱い特性があります。

輸送中の破損は医療現場に大きな影響を与えるため、特殊な梱包や固定技術が必要です。

高価

一台数千万円から数億円に及ぶ高価な製品が多く、盗難・紛失対策はもちろん、万が一の破損に備えた保険や厳重なセキュリティ体制が求められます。

設置・回収の複雑性

導入時には専門技術者による据え付けや初期設定が必要な場合が多く、使用済み機器の回収や廃棄においても、環境規制や情報漏洩対策を考慮した専門的なプロセスが求められます。

滅菌状態での輸送・保管が必要な医療機器もあります。

医薬品 ~温度管理、有効期限、偽造対策の重要性~

温度管理(コールドチェーン)

ワクチン、バイオ医薬品、インスリン製剤など、多くの医薬品は特定の温度範囲での保管・輸送が義務付けられています。

温度逸脱は品質劣化や薬効の喪失に直結するため、厳格なコールドチェーン(低温物流)の維持が不可欠です。

有効期限管理

医薬品には有効期限があり、期限切れの製品は使用できません。

ロット番号ごとの有効期限を厳密に管理し、先入れ先出しを徹底するなど、在庫管理の高度化が求められます。

偽造対策

偽造医薬品は患者さんの健康を害するだけでなく、製薬企業の信頼を損ないます。

製品の真贋を識別できるトレーサビリティシステムや、流通経路におけるセキュリティ対策が重要です。

特殊管理

麻薬、向精神薬、毒薬、劇薬など、特定の医薬品は法規制に基づき、さらに厳重な保管・輸送管理が義務付けられています。

治験薬・再生医療等製品 ~極めて厳格な管理と迅速性が求められる理由~

治験薬

承認前の医薬品であり、臨床試験の信頼性を担保するため、製造から医療機関への配送、そして患者への投与に至るまで、極めて厳格な品質管理とトレーサビリティが求められます。
投与計画に合わせたタイムリーな供給も重要です。

再生医療等製品

患者自身の細胞や組織を用いる「オーダーメイド医療」の特性を持つため、一つ一つの製品が極めて貴重です。

多くは細胞の活性維持のため、液体窒素を用いた超低温(ディープコールドチェーン)での輸送が必須であり、輸送時間の短縮、迅速な配送が何よりも重要となります。

患者さんの治療スケジュールに合わせた確実な供給が、医療物流の最難関の一つとされています。

医療物流に求められる厳格な品質管理とは?

医療物流における品質管理は、単に製品を「壊さずに運ぶ」以上の意味を持ちます。

患者さんの安全と医療の信頼性を守るため、多層的かつ厳格な基準が設けられています。

医療機器・医薬品物流に関わる主な法律と規制(薬機法、GQP/GDPなど)

医療物流を語る上で不可欠なのが、関連する法律と規制の理解です。

医薬品医療機器等法(薬機法)

医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律。

医療製品の製造、販売、流通の全般にわたる基本法であり、医療物流業者もその規制対象となります。

GQP(Good Quality Practice)

医薬品・医療機器の「品質管理基準」のこと。
製造販売業者に対して、市場に出荷された製品の品質を継続的に確保するための体制を求めています。

物流業者は、製造販売業者からの委託を受ける際に、GQP省令に適合した品質管理体制を構築する必要があります。

GDP(Good Distribution Practice)

医薬品の「適正流通基準」。
医薬品がサプライチェーンの全段階で品質を維持し、偽造医薬品の流通を防ぐことを目的としたガイドラインです。
特に欧米を中心に普及しており、日本でも厚生労働省からガイドラインが発出され、その遵守が強く求められています。

GDPは、温度管理、セキュリティ、トレーサビリティ、輸送車両・倉庫の管理、人材教育など、流通のあらゆる側面を網羅しています。

QMS省令

医療機器の品質管理監督システムに関する省令。
医療機器の製造販売業者が、医療機器の品質保証体制を確立するための基準を定めています。

これらの法規制を遵守することは、医療物流事業者の「信頼性」と「適法性」の基盤となります。

徹底した温度管理(コールドチェーン)の重要性と技術

多くの医薬品や一部の医療機器は、特定の温度範囲で保管・輸送されなければ品質が維持できません。
この一貫した温度管理体制を「コールドチェーン」と呼びます。

ワクチン、バイオ医薬品、再生医療等製品などは、温度逸脱によって薬効が失われたり、人体に有害な変化が生じたりするリスクがあります。
コールドチェーンの破綻は、患者さんの命に関わる重大な事態を招きかねません。

技術

  • 定温輸送車両…温度設定が可能な冷凍・冷蔵車両。リアルタイムで庫内温度を監視し、異常を検知するシステムを搭載しています。
  • 保冷・冷凍倉庫…設定温度を厳密に維持できる倉庫。停電時や災害時にも温度を維持するためのバックアップ電源やシステムが必要です。
  • 温度ロガー…輸送中の温度データを記録する機器。製品が適切な温度で運ばれたことを証明する重要なツールです。
  • 保冷資材…ドライアイス、蓄冷剤、真空断熱パネルなどを活用した高機能保冷箱や梱包材。
  • リアルタイム監視システム…IoT技術を活用し、輸送中の温度、湿度、位置情報をリアルタイムで監視し、異常があれば即座にアラートを発するシステム。

高度なトレーサビリティと品質保証体制

トレーサビリティとは、製品の履歴を追跡できる仕組みのことです。
医療物流においては、製造から患者さんへの供給に至るまでの全過程を可視化することが求められます。

トレーサビリティの重要性

  • 製品のロット番号、製造番号、シリアル番号などによる個体識別。
  • 入庫、保管、ピッキング、梱包、出庫、輸送、配送といった各工程での詳細な記録。
  • 万が一、製品に不具合や問題が発生した場合(例:リコール)に、迅速かつ正確に該当製品を特定し、回収・対応を可能にする。
  • 偽造品の混入を防ぎ、正規のサプライチェーンを保証する。

品質保証体制

  • SOP(標準作業手順書)の整備と遵守。
  • 定期的な内部監査・外部監査の実施。
  • 従業員への継続的な教育・訓練。
  • 苦情処理、逸脱管理、変更管理などの品質マネジメントシステム。

専用施設・専門人材の必要性

医療物流の厳格な品質管理を実現するためには、物理的な環境とそれを支える人材の両面で専門性が必要です。

専用施設

  • 薬機法対応倉庫…医薬品・医療機器の保管基準を満たした倉庫。
  • 定温倉庫…恒温恒湿管理が可能な倉庫(冷蔵、冷凍、超低温など)。
  • セキュリティ強化された倉庫…入退室管理システム、監視カメラ、警備体制などを備え、盗難や不正アクセスを防止。
  • クリーンルーム…無菌状態での取り扱いが必要な製品(再生医療等製品の一部など)に対応。

専門人材

  • 医療製品の特性、法規制、品質管理基準に関する深い知識を持つスタッフ。
  • 危険物取扱者、毒劇物取扱責任者、医療機器修理責任技術者などの資格保有者。
  • 緊急時対応、問題発生時の原因究明・是正措置に関する訓練を受けた人材。

セキュリティ対策と情報管理

高価な商材や機密性の高い情報を取り扱うため、セキュリティ対策は不可欠です。

物理的セキュリティ

  • 倉庫への厳重な入退室管理(生体認証、ICカードなど)。
  • 24時間監視カメラシステム、警備員による巡回。
  • 輸送中の車両へのGPS追跡システム、二重施錠など。

情報セキュリティ

  • 顧客情報、在庫情報、配送データなどの機密情報保護。
  • 情報システムの不正アクセス防止、データ暗号化、バックアップ体制。
  • サイバー攻撃対策、情報漏洩防止のための従業員教育。

医療物流に関するよくある質問(FAQ)

Q1. 医療物流を外部委託するメリット・デメリットは?

メリット

  • 専門知識・設備への投資不要…自社で専用倉庫や特殊車両、専門人材を抱える必要がなく、初期投資や維持コストを削減できます。
  • 品質・安全性向上…医療物流の専門業者に委託することで、法規制遵守、温度管理、トレーサビリティなどの品質管理レベルを向上させることができます。
  • 業務効率化と本業への集中…物流業務にかかる時間やリソースを削減し、製品開発や営業・マーケティングといった本業に集中できます。
  • コストの変動費化…自社で固定費として抱えるコストを、外部委託費として変動費化することが可能です。

デメリット

  • コントロールの難しさ…自社で直接管理するよりも、物流プロセスへのコントロールが限定的になる可能性があります。
  • 情報共有の課題…委託先との密な情報連携が不足すると、誤解やトラブルの原因となることがあります。
  • 委託先の選定ミスリスク…適切な専門知識や実績を持たない業者を選んでしまうと、品質低下や法規制違反のリスクがあります。

Q2. 医療物流のコストはどのように決まる?

医療物流のコストは、一般物流よりも高くなる傾向にありますが、その内訳は多岐にわたります。

  • 貨物の種類と特性…医薬品か医療機器か、温度管理の必要性(冷蔵、冷凍、超低温)、危険物や特殊管理品であるかによって大きく変動します。
  • 輸送距離と頻度…輸送距離が長く、配送頻度が高いほどコストは増加します。
  • 貨物の量とサイズ…荷物の容積や重量、特殊な形状であるかによって、車両の積載効率や梱包費用が変わります。
  • 保管期間と方法…長期保管、定温保管、セキュリティ強化保管など、保管要件によってコストが異なります。
  • 付帯サービス…梱包、検品、ラベリング、医療機器の設置・回収、廃棄、緊急配送、情報管理システム利用料などが含まれます。
  • セキュリティレベル…厳重なセキュリティ体制を求める場合、その分の費用が上乗せされます。

これらの要素を総合的に評価し、見積もりが作成されます。

Q3. 医療物流サービスを選ぶ際のポイントは?

最適な医療物流パートナーを選ぶためには、以下のポイントを重視しましょう。

  • 法規制遵守体制…薬機法、GQP、GDPなどの最新の法規制を深く理解し、遵守するための体制(倉庫、設備、人材、SOP)が整っているか。
  • 実績と経験…自社が扱う商材(医薬品、医療機器、再生医療等製品など)の物流実績が豊富か。
  • 品質管理体制…温度管理(コールドチェーン)、トレーサビリティ、セキュリティ対策、緊急時対応計画などが充実しているか。
  • 専門知識を持つ人材…医療物流に特化した専門知識を持つスタッフが在籍しているか。
  • 情報システム…在庫管理、配送状況追跡、温度監視などが可能な情報システムが提供されているか。
  • 柔軟性と対応力…突発的な依頼や特殊な要望にも柔軟に対応できるか。
  • コストと透明性…サービス内容に見合った適正なコストであり、料金体系が明確か。
  • 企業文化と信頼性…長期的なパートナーシップを築ける信頼性のある企業か。

複数の業者から見積もりを取り、比較検討することをお勧めします。

まとめ

医療物流は、単なる「運ぶ」という行為を超え、医薬品や医療機器の品質と安全性を確保し、患者さんの命と健康を守るための極めて重要な社会インフラです。
営業・マーケティング担当者であるあなたがこの分野の奥深さと専門性を理解することは、自社のビジネス戦略を立案する上で、新たな視点と競争優位性をもたらすでしょう。

特に、医薬品・医療機器メーカー、医療機関、そして物流関連企業にとって、医療物流の専門知識は不可欠です。
外部パートナーとの連携を検討する際にも、本記事で解説した法規制、品質管理、トレンドなどの知識が、適切な選択と効果的な協業の基盤となります。

未来の医療物流は、DX化や再生医療の進化により、さらに高度化・複雑化していきます。この変化の波を捉え、自社のビジネスに活かすことで、医療の発展と社会貢献に寄与できるはずです。
ぜひ、この医療物流という分野に注目し、貴社のビジネスの可能性を広げてください。

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